【管理職になりたくない76.7%】「課長になったら残業代ゼロ」は本当?管理職不足が広がる理由を元人事経験者が解説

人事・労務

「昇進して課長にならないか?」

以前なら、給与が上がり、会社から評価された証拠として喜ぶ人も多かったかもしれません。

しかし今、「管理職になりたくない」人がかなり多くなっています。

アデコが2026年に全国の一般社員800人へ行った調査では、「将来管理職になりたくない」「どちらかといえばなりたくない」と答えた人は合計**76.7%**でした。また71.7%が、管理職について「得より損の方が多い」または「損しかない」と回答しています。アデコ コーポレートサイト

一方で企業側を見ると、管理職が余っているわけではありません。マイナビの「中途採用実態調査2026年版」では、企業の43.5%が正社員不足を感じ、課長クラスについても34.8%が不足と回答。部長・課長クラスの不足感は2021年と比べ約7ポイント上昇しています。2026年1~6月に中途採用を行った企業では、半数以上が管理職の中途採用も実施していました。株式会社マイナビ

会社は管理職が欲しい。でも働く側は管理職になりたくない。

なぜ、こんな逆転現象が起きているのでしょうか。

「若い人に出世欲がない」で片付けていいのか

管理職になりたくない理由を見ると、「最近の若者は責任を負いたくないから」と単純化するのは適切ではありません。

アデコの調査で管理職になりたくない人に理由を聞くと、最も多かったのは**「ストレスが大きそう」78.0%**。続いて「責任が増えそう」52.7%、「勤務時間が長くなりそう」46.3%でした。アデコ コーポレートサイト

別の20代後半~30代の転職希望者を対象にした調査でも、管理職になりたくない理由の上位は「責任やストレスを増やしたくない」68.8%、「ワーク・ライフ・バランスが崩れるのが嫌」50.6%、「給与アップと負担増が見合わない」44.8%でした。ITmedia

つまり問題は、

「責任を持ちたくない」だけではなく、責任・労働時間・報酬のバランスが取れていないと感じられていること

にあります。

「管理職は罰ゲーム」と感じられる理由

一般社員800人を対象とした先ほどの調査では、管理職になってもよい条件として最も多かったのが**「給与・賞与の大幅な増額」69.7%**でした。次いで「労働時間の適切な管理と削減」42.1%、「役職に応じたインセンティブ」35.2%です。アデコ コーポレートサイト

ここから見えるのは、管理職そのものを全員が嫌っているわけではないということです。

例えば一般社員の仕事に加えて、部下の育成、シフト調整、トラブル対応、評価、採用、会議、数値管理、上司への報告まで増えたとします。

ところが給与は月2万円しか増えない。

さらに、

「管理職だから残業代はありません」

と言われる。

これでは、

「責任だけ増えて、時間と手取りはむしろ厳しくなった」

と感じる人が出ても不思議ではありません。

会社側は「昇進させた」と考えていても、本人からすると仕事を追加されたようにしか見えていない可能性があります。

課長になったら残業代はなくなる?

ここは労務上、非常に重要です。

「会社で管理職になった=残業代がなくなる」ではありません。

労働基準法には「監督若しくは管理の地位にある者」、一般に管理監督者と呼ばれる人について、労働時間・休憩・休日に関する規制を適用しないというルールがあります。

しかし厚生労働省は、管理監督者に当たるかどうかは「課長」「部長」「店長」などの役職名ではなく、実態で判断すると明確にしています。労働条件確認サイト

判断では、経営者と一体的な立場で重要な職務や権限を持っているか、出退勤など労働時間について裁量があるか、一般社員と比べて地位にふさわしい待遇を受けているかなどが考慮されます。労働条件確認サイト

したがって、

「課長に昇進させたので、来月から残業代はゼロです」

と肩書だけで判断することはできません。

社内では管理職と呼ばれていても、労働基準法上の管理監督者に該当しなければ、原則として時間外・休日労働に対する割増賃金が必要です。労働局所在地一覧

なお、労基法上の管理監督者に該当する場合でも、深夜労働の割増賃金までなくなるわけではありません。労働条件確認サイト

なぜ企業では管理職不足が起きているのか

厚生労働省の2026年8月の労働経済動向調査でも、正社員等の労働者過不足判断D.I.はプラス47ポイントとなっており、人手不足を感じている事業所が過剰と感じる事業所を大きく上回っています。労働新聞社Webサイト

そこに、管理職になりたくない人の増加が重なります。

さらにマイナビの最新調査では、2021年と比較して部長・課長クラスの不足感が約7ポイント上昇しています。つまり、これは単なる「新人が採れない」という話ではなく、組織を動かす中間層そのものが不足している企業が増えているという問題です。マイナビキャリアリサーチLab | 働くの明日を考える

ここで会社側が、

「最近の社員は出世欲がない」

で終わらせると、原因を見誤ります。

プレイヤーとして働きながら管理もする「二重構造」

管理職になったのに、自分の仕事が減らない会社があります。

営業なら自分の売上目標を持ったまま部下の数字も管理する。

介護現場なら人員不足のため自分も現場へ入りながら、シフト、家族対応、職員面談、事故対応、行政対応まで行う。

店長なら欠勤者が出れば自分が穴を埋める。

こうなると、

プレイヤー+マネジャー

という二つの仕事を一人で担当することになります。

もちろん、現場を知る管理職にはメリットもあります。しかし会社が「管理職になったのだから全部できるだろう」と仕事だけ積み上げれば、役職が上がるほど負担が増えていきます。

その姿を若手社員が毎日見ています。

そして、

「自分もいつかああなるのか」

と思えば、管理職になりたい人が減るのは自然な結果かもしれません。

管理職不足を「採用」で解決できるか

企業側が管理職不足になれば、中途採用で経験者を採ろうとします。

実際、マイナビ調査では2026年1~6月に中途採用した企業の半数以上が管理職を採用し、管理職採用への満足度も7割を超えています。株式会社マイナビ

外部採用には意味があります。

別の会社でマネジメントを経験した人が入れば、新しい考え方も持ち込めます。

ただし、ここにも一つ問題があります。

「なぜ自社の社員が管理職になりたがらないのか」を放置したまま、外から管理職を採っても根本原因は残ります。

長時間労働。

権限不足。

報酬不足。

上司と部下の板挟み。

プレイヤー業務との兼務。

この構造が変わらなければ、新しく採用した管理職も疲弊する可能性があります。

「管理職にならないキャリア」も認める必要がある

もう一つ企業が考える必要があるのが、

管理職にならなければ給与が上がらない会社でいいのか

という問題です。

例えば、営業が非常に得意な人。

介護技術に優れている人。

ITエンジニアとして高い専門性を持つ人。

必ずしも、人を管理する仕事が得意とは限りません。

専門性を高めて会社へ貢献した人が、

「給与を上げたければ管理職になってください」

と言われる。

そこで苦手なマネジメントを任されれば、本人にも会社にも損失になる場合があります。

管理職コースだけではなく、

専門職として評価・昇給できるキャリア

を用意することも、これからの人事制度では重要になると思います。

では、管理職になった方がいいのか?

ここも「管理職は損」と決めつけるのは違います。

管理職になることで給与が増える人もいます。意思決定できる範囲が広がり、チームを作る経験、人材育成、予算管理、採用、組織運営など、プレイヤーのままでは得にくい経験もできます。

将来転職するときに、マネジメント経験が評価されるケースもあります。

実際、管理職不足が広がっているなら、管理経験を持つ人材の市場価値が高まる可能性もあります。

重要なのは、

「昇進だから受ける」

でも、

「管理職は大変だから断る」

でもありません。

見るべきなのは、責任・権限・報酬・労働時間・今後のキャリアが釣り合っているかです。

管理職を打診されたら確認したい5つのこと

管理職への昇進を打診されたときは、肩書だけで判断せず、次の5点を具体的に確認した方がいいと思います。

  1. 給与はいくら変わるのか。基本給・役職手当・賞与まで含め、昇進前後を比較する。
  2. 残業代の扱いはどうなるのか。「管理職だから出ない」と言われた場合でも、自分が労基法上の管理監督者に当たるのかは別問題。
  3. どこまで権限を持てるのか。部下を評価する責任だけあり、人員・採用・業務配分を何も決められない状態では負担だけが増えやすい。
  4. プレイヤー業務はどのくらい残るのか。管理職業務が追加されるだけなのか、既存業務が減るのかを確認する。
  5. その経験が次のキャリアにつながるか。3年後・5年後にどんなスキルとして残るのかまで考える。

「課長」という肩書より、この中身を見ることの方が重要です。

会社が本当に見直すべきこと

管理職不足を解消するために、

「管理職研修を増やしましょう」

だけでは足りません。

社員から見えている管理職の姿そのものを変えなければ、

「自分もやってみたい」

とは思ってもらえません。

給与。

権限。

人員。

労働時間。

サポート体制。

プレイヤー業務との割合。

そして、失敗した管理職をすぐ「能力不足」で終わらせない仕組み。

管理職になりたい人を増やすには、社員の意識を変える前に、管理職という仕事そのものを魅力のある仕事に作り直す必要があるのではないでしょうか。

まとめ|問題は「出世したくない社員」だけではない

2026年の調査では、一般社員800人の76.7%が管理職になりたくないと回答しました。一方、企業では管理職層の不足感が5年前より高まっています。アデコ コーポレートサイト

この2つを並べると、

管理職不足は、単なる人手不足ではない

ことが見えてきます。

働く側から見て、

責任が増える。

仕事が増える。

ストレスが増える。

でも給与や権限はそれほど増えない。

もしこれが現実なら、

「管理職になりたくない」

という判断にも合理性があります。

一方で、管理職経験はキャリアの幅を広げる可能性もあります。

だからこそ、

「管理職になるべきか」ではなく、「その管理職は責任に見合う仕事になっているか」

を考える必要があります。

管理職不足を解決する第一歩は、社員に出世を求めることではありません。

「あの仕事なら、自分もやってみたい」

と思える管理職を会社が作れるか。

そこに、これからの組織づくりの大きな課題があると思います。

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