「長時間労働が疑われる事業場の38.5%で違法な時間外労働が確認された」。そんなニュースを見て、「日本の会社の約4割が違法残業をしているの?」と思った人もいるかもしれません。
厚生労働省が2026年9月15日に公表した令和7年度の監督指導結果では、29,150事業場を調査し、そのうち11,228事業場、38.5%で違法な時間外労働が確認されました。さらに、その11,228事業場のうち4,991事業場では、最も長く働いた労働者に月80時間を超える時間外・休日労働が確認されています。厚生労働省
ただし、この「38.5%」には重要な注意点があります。調査対象は日本中の会社を無作為に選んだものではなく、月80時間を超える時間外・休日労働が疑われる事業場や、過労死等の労災請求があった事業場など、もともと長時間労働が疑われる事業場です。したがって、「日本企業の38.5%が違法残業をしている」と読むのは誤りです。厚生労働省
では、そもそも残業は何時間から違法になるのでしょうか。「45時間」「80時間」「100時間」という数字を聞いたことがあっても、それぞれ意味が違います。
そもそも「残業=違法」ではない
労働基準法では、原則として1日8時間・1週40時間が法定労働時間です。これを超えて労働させる場合、会社は原則として労働者側と「時間外・休日労働に関する協定」、いわゆる**36協定(サブロク協定)**を結び、労働基準監督署へ届け出る必要があります。厚生労働省
つまり、「残業が発生したら即違法」ではありません。しかし逆に、「残業代を払っているから何時間でも働かせていい」ということでもありません。
有効な36協定がないのに法定労働時間を超えて働かせたり、36協定で決めた範囲を超えたり、法律上の上限規制を超えたりすれば、労働基準法違反となる可能性があります。
「月45時間」は何の数字?
一般的な労働者について、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間です。厚生労働省
ここで誤解されやすいのが、「46時間残業したら必ず違法」という理解です。
通常予見できない業務量の大幅な増加など、臨時的な特別の事情がある場合には、会社と労働者側が特別条項付き36協定を締結することで、一定の条件のもと月45時間を超える時間外労働が認められる場合があります。
ただし、「忙しいから毎月特別条項を使えばいい」という制度ではありません。月45時間を超えられるのは年6か月までです。スタートアップ労働
80時間、100時間は何が違う?
ここを整理すると分かりやすくなります。
| 数字 | 主な意味 |
|---|---|
| 月45時間 | 時間外労働の原則的な上限 |
| 年360時間 | 原則的な年間上限 |
| 年720時間 | 特別条項を使う場合でも超えられない年間の時間外労働上限 |
| 月100時間未満 | 特別条項でも時間外+休日労働の単月上限 |
| 2~6か月平均80時間以内 | 特別条項でも時間外+休日労働について守る必要がある上限 |
| 月80時間・100時間程度 | 脳・心臓疾患との関連を見る労災認定基準でも重要な水準 |
一般の労働者では、臨時的な特別事情があっても、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計は単月100時間未満、2~6か月平均80時間以内という上限があります。厚生労働省
つまり、「80時間を超えた瞬間にすべて違法になる」という意味ではありません。 単月だけを見るのか、2~6か月平均なのか、休日労働を含むのか、36協定の内容はどうなっているのかなどで判断が変わります。
なお、自動車運転業務や医師、災害時の復旧・復興に関する建設業務など、一部には一般則と異なる特例があります。そのため個別案件では職種・業務まで確認する必要があります。厚生労働省
「80時間=過労死ライン」と聞くけれど?
一般に「過労死ライン」と呼ばれる数字と、労働基準法上の残業上限も混同しない方がいいでしょう。
厚生労働省の脳・心臓疾患の労災認定基準では、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2~6か月間に1か月平均おおむね80時間を超える時間外労働がある場合、業務と発症との関連性が強いと評価されます。厚生労働省
ただし、「79時間なら安全」「80時間を超えなければ健康上問題ない」という意味ではありません。厚生労働省は、月45時間を超えて時間外・休日労働が長くなるほど、脳・心臓疾患との関連性が徐々に強くなるという考え方を示しています。また、労働時間だけでなく、勤務間インターバルの短さ、連続勤務、深夜勤務、身体的・心理的負荷なども含めて総合的に評価されます。厚生労働省
今回の「38.5%」はどう読むべき?
今回の厚生労働省調査では、29,150事業場のうち、労働基準関係法令違反が認められた事業場は22,882事業場で**78.5%**でした。その中で、違法な時間外労働は11,228事業場、賃金不払残業は1,901事業場、過重労働による健康障害防止措置が未実施だった事業場は5,919事業場でした。厚生労働省
この数字を見て「会社はみんな違反している」と一般化するのも違います。何度も言いますが、対象は長時間労働が疑われた事業場です。
ただ、それを踏まえても無視できない数字があります。違法な時間外労働が確認された11,228事業場の中では、最も長く働いた労働者について、月80時間超が4,991事業場、月100時間超が2,842事業場、月150時間超が554事業場、月200時間超も111事業場ありました。厚生労働省
「残業が多い会社が存在する」というだけではなく、極端な長時間労働が現在も実際に確認されている、という点は重く見る必要があります。
「36協定があるから大丈夫」でもない
会社で働いていると、「うちは36協定を出しているから残業は問題ない」と説明されることがあります。
しかし、36協定は残業を無制限に認める許可証ではありません。
36協定を締結・届出していても、その協定で決めた時間を超えれば問題になりますし、特別条項があっても法律上の上限を超えることはできません。さらに、残業をさせた場合には所定の割増賃金を支払う必要があります。法定時間外労働では原則25%以上、1か月60時間を超える時間外労働では50%以上の割増賃金が必要です。厚生労働省
つまり会社側が見るべきなのは、「36協定を出したか」だけではなく、実際に何時間働いているかです。
「本人が勝手に残っていた」は通用する?
労働時間管理で問題になりやすいのが、タイムカードと実際の勤務時間が合っていないケースです。
厚生労働省は、使用者には労働者の日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録することを求めています。原則として、使用者自身による確認や、タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間などの客観的記録を基礎として把握することが示されています。労働者チェック
「残業申請は30分までだけど、その後も仕事をしている」「タイムカードを押してから片付けや事務作業をしている」といった状態を会社が把握しながら放置しているなら、単に「本人が自主的に残っていた」で済むとは限りません。
今回の監督指導でも、4,045事業場で労働時間の把握が不適正として指導されています。厚生労働省
働く側は何を確認すればいい?
「自分の会社も残業が多いけど、大丈夫なのかな」と感じた場合、まず確認したいのは単純な残業時間だけではありません。
労働条件通知書や就業規則で所定労働時間を確認し、自分の始業・終業時刻が実態どおり記録されているか、36協定の範囲を超えていないか、残業代が適切に支払われているかを確認する必要があります。
タイムカードとパソコンのログが大きく違う、残業申請を実際より短く書くよう求められている、残業代が給与にどう反映されているか分からない、といった場合には一度整理してみた方がいいでしょう。
人事・管理職こそ「残業時間の数字」だけを見ない
人事や管理職の立場から考えると、「今月は45時間を超えなかったから問題なし」で終わらせるのも危険です。
例えば月40時間の残業でも、深夜勤務が続いている、休日が取れていない、勤務間隔が短い、特定の人だけに業務が集中しているのであれば、別の問題が起きている可能性があります。
本当に見るべきなのは、**何時間残業したかだけではなく、「なぜその残業が発生しているのか」**です。
人が足りないのか。業務量が多すぎるのか。管理職が部下の仕事量を把握していないのか。「残業する人ほど頑張っている」という文化になっていないか。
残業時間の数字を減らすために退勤記録だけ早くするような運用になれば、本末転倒です。
「残業が多い」より怖いこと
長時間労働そのものは当然見直す必要があります。ただ、現場でより根深いと感じるのは、
「これくらい普通」
という感覚です。
「昔はもっと働いていた」「この業界では当たり前」「管理職なんだから仕方ない」。こうした言葉が繰り返されると、本来おかしい状態が職場の日常になっていきます。
今回の監督指導結果から考えるべきなのは、「38.5%も違反している」という数字だけではありません。
自分たちの職場で当たり前になっている働き方は、本当に当たり前なのか。
人事・管理職も、働く側も、一度そこから考えてみる必要があると思います。
まとめ|「何時間なら大丈夫?」だけでは足りない
残業時間には、45時間、80時間、100時間などさまざまな数字が登場しますが、それぞれ意味が違います。
一般的な労働者の時間外労働は原則月45時間・年360時間。特別条項を利用する場合でも、年720時間、時間外・休日労働を合わせて単月100時間未満、2~6か月平均80時間以内などの上限があります。厚生労働省
そして80時間や100時間は、健康障害との関連を考えるうえでも重要な水準です。厚生労働省
今回のニュースを「違法残業が38.5%あった」で終わらせず、自分の働き方に置き換えてみてください。
何時間残業しているのか。残業代は支払われているのか。そして、その残業は本当に必要なのか。
数字を知ること以上に、その状態を「普通」にしないことが大切なのではないでしょうか。


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