【職場トラブルをAIに相談して大丈夫?】労働委員会でAI作成資料も 個人情報漏えいには要注意

人事・労務

「上司からこんなことを言われた。これってパワハラ?」

「突然給料を下げると言われたけど違法?」

「退職を伝えたら、有給は使わせないと言われた」

職場でトラブルが起きたとき、まずChatGPTやGeminiなどの生成AIに聞いてみる。

そんな使い方も、これから当たり前になっていくのかもしれません。

2026年10月13日の労働新聞によると、埼玉県労働委員会の個別労働紛争の「あっせん」手続きで、生成AIを利用して作成したと思われる資料が散見されるようになったといいます。

資料は主に、労働者側が自分の主張する事実や論点を整理したものとみられています。

さらに、埼玉県労働委員会が7月に実施したアンケートでは、職場トラブルの相談先として今年から新たに「AI」が選択肢に加わり、回答者の3.3%がAIを挙げています。

生成AIは、考えを整理したり、長い出来事を時系列にまとめたりするには便利です。

一方で、職場トラブルを詳しく説明しようとして、

会社名、上司の実名、給与明細、雇用契約書、社内メールなどを、そのまま入力していないでしょうか。

便利なAI相談が、別の情報管理上のリスクにつながる可能性もあります。

今回は、働く人の立場から「職場トラブルを生成AIに相談するとき、何に使えて、何に注意すべきなのか」を考えます。

生成AIは「話を整理する」のには便利

職場トラブルが起きると、本人の中でも事実と感情が混ざりやすくなります。

たとえば、

「月曜日に上司から退職を勧められた」

「水曜日に給与を下げると言われた」

「金曜日にはメールで違う説明が届いた」

「その前にも同じような発言があった」

こうした出来事が続けば、自分でも何から説明すればいいのか分からなくなることがあります。

そんなとき、

「この内容を日付順に整理してください」

「事実と自分の意見を分けてください」

「労働局へ相談するときに確認したいことを整理してください」

「相談するときの質問事項を作ってください」

と生成AIへ頼む。

こうした使い方は便利です。

今回報じられた労働委員会の事例でも、労働者側が主張する事実や論点の整理に生成AIが使われているとみられています。

でも「生成AIが違法と言った」は法律判断ではない

ここは非常に重要です。

生成AIに、

「これは違法ですか?」

と質問すると、法律や制度を使ったもっともらしい回答が返ってくることがあります。

しかし実際の労働問題は、

雇用契約書
労働条件通知書
就業規則
給与明細
勤務実態
会社とのメールやLINE
発言があった状況
会社側の説明

などによって判断が変わります。

同じ「給料を下げられた」という相談でも、全員が同じ結論になるわけではありません。

生成AIは、相談内容を整理することはできますが、裁判官や弁護士、労働基準監督官ではありません。

回答に誤りが含まれたり、存在しない制度や判例をもっともらしく説明したりする可能性もあります。

そのため、

生成AIの回答は「次に何を調べればいいかを考える入口」として利用する。

このくらいの距離感が重要です。

厚生労働省自身もAIを利用した「労働基準監督署チャットボット」を提供していますが、個別の相談に対する法的判断を行うものではなく、個人情報を入力しないよう案内しています。

特に注意したい「生成AIに入力する情報」

生成AIへ職場トラブルを相談するとき、法律知識以上に注意したいことがあります。

それが個人情報や会社情報の入力です。

たとえば、

「株式会社○○で働いています」

「○○部長からこのLINEが送られてきました」

「同僚の○○さんが病気で休職しています」

と、実名のまま入力する。

あるいは、

給与明細
雇用契約書
社内メール
社員名簿
顧客名簿
会議資料

などを、そのままアップロードする。

これは慎重に考える必要があります。

入力したら「ネットに公開される」わけではない

ここは誤解しないようにしたいところです。

生成AIへ入力した文章が、その瞬間にインターネット上へ公開されるわけではありません。

一方で、多くの生成AIは外部事業者が提供するオンラインサービスです。

入力した文章やファイルは、サービスを提供するために事業者側のシステムへ送られます。

そして、

保存される期間
サービス改善への利用
人によるレビュー
履歴の保存
個人向け・法人向けサービスの違い

などは、サービスや設定によって異なります。

個人情報保護委員会も、生成AIサービスへ個人情報を入力する場合には、その情報がどのように取り扱われるのかを確認し、リスクを踏まえて判断するよう注意を呼び掛けています。

つまり、

「生成AIに入力したら必ず情報漏えいする」ではありません。

しかし、

「AIとの会話だから何を書いても大丈夫」と考えるのも危険です。

データの扱いはサービスや設定によって違う

生成AIと一口にいっても、データの扱いはすべて同じではありません。

個人向けサービスなのか。

法人向けサービスなのか。

履歴を保存する設定なのか。

サービス改善への利用を許可しているのか。

利用するサービスやプラン、設定によって条件が異なる場合があります。

そのため、

「生成AIなら全部同じ」

と考えず、自分が使っているサービスのプライバシー設定やデータの利用方法を一度確認しておくことが重要です。

そして、サービス側の設定を変更できたとしても、

「学習や改善に使われない=何を入力しても安全」

という意味ではありません。

情報そのものを必要以上に入力しないことが基本です。

情報漏えいリスクは「AIが学習するか」だけではない

生成AIへの情報漏えいというと、

「入力内容が学習に使われるのでは?」

という話だけが注目されがちです。

しかし、考えるべきリスクはそれだけではありません。

たとえば、

生成AIのアカウントが第三者に乗っ取られる。

チャット履歴に会社とのトラブルや個人情報が大量に残っていれば、それを見られる可能性があります。

共有機能を誤って利用する。

他人に見せるつもりのなかった会話まで共有してしまう可能性があります。

会社の資料を個人の生成AIアカウントへアップロードする。

本人としては「要約してもらっただけ」でも、会社から見れば社外のサービスへ機密情報を送信したことになる場合があります。

つまり、

「生成AIが勝手に情報を漏らす」というより、自分の使い方によって情報を外部サービスへ渡してしまう可能性がある

と考える方が分かりやすいでしょう。

生成AIにそのまま入力しない方がいい情報

職場トラブルを相談するときは、少なくとも次のような情報をそのまま入力するのは避けた方が安全です。

氏名
住所
電話番号
メールアドレス
社員番号
マイナンバー
銀行口座
クレジットカード番号
ID・パスワード
顧客情報
利用者情報
同僚の健康情報
会社の未公表情報
営業秘密

特に注意したいのは、自分以外の人の情報です。

自分の相談だから、

「自分の情報なら入力してもいい」

と思うかもしれません。

しかし相談文の中には、上司、同僚、顧客、利用者など、第三者の個人情報が含まれていることがあります。

自分が相談するためだからといって、他人の個人情報まで自由に外部サービスへ入力してよいとは限りません。

「株式会社○○」ではなく「A社」にする

では、職場の具体的な話を生成AIには相談できないのでしょうか。

そんなことはありません。

必要のない情報を匿名化するだけでもリスクを減らせます。

「株式会社○○」

ではなく、

「勤務先A社」。

「営業部長の山田太郎さん」

ではなく、

「直属の上司A」。

「取引先の株式会社△△」

ではなく、

「取引先B社」。

具体的な金額そのものが重要でなければ、

「月給43万8,500円」

ではなく、

「月給約44万円」

としてもよいでしょう。

生成AIに考えてもらうために重要なのは、実名ではなく、

誰が、いつ、何をしたのか

という関係性です。

実名を仮名へ置き換えても、時系列や論点は十分整理できます。

給与明細やLINEのスクリーンショットにも注意

生成AIは、画像や文書の内容も読み取れるようになっています。

そこで、

「この給与明細を見てほしい」

「上司とのLINEを判断してほしい」

と画像をそのままアップロードしたくなるかもしれません。

しかし画像には、

氏名
会社名
メールアドレス
電話番号
社員番号
住所
口座情報
プロフィール画像

など、相談内容とは関係のない情報まで写っていることがあります。

給与明細なら、社会保険に関する情報なども含まれます。

画像をアップロードするのであれば、

必要のない部分を黒塗りしたり、トリミングしたりしてから使う。

このひと手間が重要です。

生成AIに相談するより「元の証拠を残す」方が重要

職場トラブルが起きたとき、生成AIへ詳しく相談する以上に大切なことがあります。

それが元の記録を残すことです。

雇用契約書。

労働条件通知書。

給与明細。

勤怠記録。

会社から届いたメール。

LINEや社内チャット。

会社から渡された通知書。

生成AIは、それらの内容を分かりやすく整理することはできます。

しかし、

「生成AIがこうまとめてくれました」

という文章が、会社から実際に何を言われたのかを示す元資料の代わりになるわけではありません。

生成AIは証拠を作る道具ではなく、証拠や事実を整理する道具。

この区別は重要です。

私自身も「まず整理する」ことは重要だと思う

私はこれまで、人事や労務、採用、事業運営などに関わってきました。

職場トラブルについて話を聞くとき、

「本人自身も何が起きたのか整理できていない」

という状態は珍しくありません。

怒りや不安があるなかで、

「何月何日に何を言われましたか?」

「その前に何がありましたか?」

「メールなどは残っていますか?」

と聞かれても、すぐに答えるのは難しいものです。

そういう意味では、

「まず時系列を整理して」

「相談するときの質問を作って」

と生成AIへ頼む使い方は、かなり実用的だと思います。

一方で、

便利だからこそ、全部の情報を渡す必要はありません。

会社名も上司の実名もなくても、相談内容は整理できます。

労働相談は年間100万件を大きく超えている

厚生労働省によると、2025年度の総合労働相談件数は119万8,010件で、18年連続で100万件を超えています。

職場のいじめ・嫌がらせ、労働条件の引下げ、解雇など、さまざまなトラブルについて相談が寄せられています。

それだけ多くの人が、

「会社とトラブルになった」

「これっておかしくない?」

「誰に相談すればいいの?」

と悩んでいるということです。

生成AIは24時間利用できるため、

誰かに相談する前の入口

として使う人が増えるのは自然だと思います。

職場トラブルを生成AIへ相談するときの5つのルール

最後に、最低限覚えておきたいポイントをまとめます。

① 実名や個人情報をできるだけ入れない

会社名はA社、上司は上司Aなどへ置き換えます。

② 会社の機密情報をそのままアップロードしない

社内資料や顧客データ、未公表情報などは特に注意します。

③ 生成AIの回答をそのまま法律判断にしない

「違法です」「勝てます」と回答されても、重要な判断は公的機関や専門家にも確認します。

④ 元の証拠を残す

メール、契約書、給与明細、勤怠記録など、元になった資料を保存します。

⑤ 利用しているサービスの設定を確認する

生成AIによってデータの保存・利用方法は異なります。

生成AIは「相談相手」より「相談の準備相手」

生成AIは非常に便利です。

「こんなこと誰にも聞けない」

という状態でも、とりあえず文章にすることができます。

自分の状況を整理し、

「次に何を確認すればいいか」

を考える手助けにもなります。

ただし、

生成AIに相談するために、別の個人情報や会社情報まで必要以上に外へ出してしまっては本末転倒です。

相談するときは、

「もっと詳しく書けば、もっと正確な回答が返ってくる」

だけではなく、

「この情報、本当に入力する必要がある?」

と一度考える。

そして重大な労働トラブルなら、生成AIだけで判断を終わらせず、総合労働相談コーナー、労働基準監督署、労働委員会、弁護士、社会保険労務士など、内容に応じた相談先へつなげる。

生成AIは、

「最終判断をしてもらう場所」ではなく、「人へ相談する前に、自分の状況を整理する場所」。

今のところ、このくらいの使い方が現実的なのではないでしょうか。

そして、相談の前に一つだけ。

実名や個人情報を入力していないか、送信ボタンを押す前にもう一度確認する。

生成AIを安全に使うために、まずそこから始めてみてはいかがでしょうか。


参考資料

・労働新聞「​​あっせん手続でAI使用の兆し 埼玉県労委」(2026年10月13日)
・厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
・厚生労働省「労働基準監督署チャットボットのご案内」
・個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
・OpenAI「ChatGPTのデータ管理」
・Google「Geminiアプリのプライバシーに関する情報」

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。生成AIサービスのデータ保存・利用方法は、サービス、プラン、設定、利用時期などによって変更される場合があります。利用するサービスの最新の利用規約やプライバシーポリシーをご確認ください。また、個別の労働問題や法的判断については、公的相談窓口や専門家へご相談ください。

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