「求人票にはこう書いてあったのに、入社してみたら話が違った」
転職経験がある人なら、一度は聞いたことがある話ではないでしょうか。
給与、仕事内容、勤務地、休日、残業――。
働くうえで重要な条件だからこそ、「面接で聞いていた内容と違う」「入社後に初めて転勤があると知った」となれば、会社への不信感にもつながります。
2026年10月7日の労働新聞によると、東京・中央労働基準監督署が2025年に行った監督指導では、労働条件の明示に関する違反が「明確に増加している」としています。
背景として指摘されているのが、2024年4月に行われた労働条件明示ルールの改正です。
今回は、人事・労務を経験してきた立場から、「求人票と話が違う」を防ぐために、求職者と企業の双方が確認しておきたいポイントを整理します。
2024年から「仕事内容」だけでは足りなくなった
2024年4月から、求人募集や労働契約を結ぶ際の労働条件明示ルールが変わりました。
たとえば求人募集では、従来の仕事内容や勤務地だけでなく、
・従事する業務の「変更の範囲」
・就業場所の「変更の範囲」
・有期契約の場合は契約更新の基準や更新上限
などについても明示が必要になっています。
たとえば、
「採用直後は東京本社勤務だが、将来的には全国の事業所へ転勤する可能性がある」
「営業職として採用するが、将来的に別部署へ配置転換する可能性がある」
という会社であれば、単に「勤務地:東京」「仕事内容:営業」と書けばよいとは限りません。
将来どこまで変更される可能性があるのかも、求職者が判断できるようにすることが求められています。
企業側からすると記載項目が増えただけに見えるかもしれません。
しかし、求職者側から見ると非常に重要です。
「転勤がないと思って応募した」
「ずっとこの仕事をすると思っていた」
という認識のズレを、入社前に減らすためのルールだからです。
「求人票」と「労働条件通知書」は同じものではない
ここは特に注意したいポイントです。
求人サイトやハローワークなどに掲載されている「求人票」と、採用時に会社から示される「労働条件通知書」は同じものではありません。
厚生労働省も、求人票などに記載された条件が、そのまま直ちに実際の労働契約の内容になるわけではないと説明しています。
だからといって、企業が自由に条件を変更してよいわけでもありません。
求人時に示した労働条件を変更する場合には、企業は労働契約を結ぶ前に、変更内容を求職者へ明示する必要があります。
たとえば、
求人票では「月給30万円」
↓
面接後は「月給27万円」
となったのであれば、「最終的には27万円です」と分かる形で示す必要があります。
「入社して給与明細を見て初めて分かった」という状態は避けなければなりません。
求職者側も、「求人票に書いてあったから大丈夫」と考えるのではなく、最終的な労働条件を確認することが重要です。
転職前に最低限確認したい3つのポイント
1.給与の「総額」ではなく内訳を見る
「月給30万円」と書いてあっても、中身は会社によって違います。
基本給はいくらなのか。
固定残業代が含まれているのか。
手当はいくらなのか。
賞与は確約なのか、それとも業績によるものなのか。
額面だけを見るのではなく、内訳まで確認することが重要です。
特に固定残業代がある場合は、何時間分の時間外労働に相当するのかも確認しておきたいところです。
2.「変更の範囲」を確認する
勤務地が「東京都」でも、将来的に転勤がある会社なのか。
仕事内容が「事務職」でも、将来的に営業など別職種へ異動する可能性があるのか。
ここは2024年改正で特に重要になった部分です。
現在の勤務条件だけでなく、「将来どこまで変わる可能性があるのか」を確認しましょう。
3.内定後は労働条件通知書を確認する
口頭説明だけで判断せず、最終的に提示された労働条件を確認してください。
労働基準法第15条では、使用者に対して労働契約締結時の労働条件明示を求めています。
そして、明示された労働条件と実際の労働条件が異なる場合には、労働基準法上、労働者が即時に労働契約を解除できる場合もあります。
ただし、「求人票の内容と違う」ということと、「契約時に明示された労働条件と実際が違う」ということは、法律上まったく同じ話ではありません。
だからこそ、採用が決まった段階で労働条件通知書を確認しておくことが重要になります。
2026年10月からはパート・有期雇用でも追加ルール
さらに2026年10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者に関するルールも一部変わりました。
雇い入れ時の明示事項に、正社員などとの待遇差の内容や理由について、事業主へ説明を求めることができる旨が追加されています。
派遣労働者についても、同様に説明を求めることができる旨の明示が必要になりました。
正社員だけではなく、パート、契約社員、派遣社員を採用している会社も、以前作った労働条件通知書をそのまま使い続けていないか確認する必要があります。
「昔からこの書式を使っているから大丈夫」は通用しにくくなっています。
採用は「入社させること」がゴールではない
採用活動では、どうしても応募者を増やすことや内定承諾を取ることに意識が向きがちです。
しかし、条件を良く見せて採用できたとしても、入社後に「聞いていた話と違う」となれば、早期退職につながります。
結果として、採用広告費も教育に使った時間も失うことになります。
求職者にとっても同じです。
求人票の給与額や休日数だけを見るのではなく、
「どんな仕事をするのか」
「どこで働く可能性があるのか」
「給与の内訳はどうなっているのか」
「契約更新はどうなるのか」
まで確認する。
転職で後悔しないためには、会社名や給与以上に「条件をきちんと説明してくれる会社か」を見ることも一つの判断材料になると思います。
求人票は、会社と求職者が最初に交わす約束の入口です。
採用する側も、働く側も、「書いてあるだろう」「聞いているはずだろう」ではなく、お互いが同じ条件を理解している状態を作ること。
それが、入社後の「こんなはずではなかった」を減らす一番基本的な方法ではないでしょうか。
【参考資料】
・厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが変わりました」
・厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」
・厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
・厚生労働省「求人票や求人広告に記載された条件が、実際の条件と違った場合の対処法」
・労働新聞「条件明示違反が増加 6年のルール変更影響し 中央労基署」(2026年10月7日)
※本記事は一般的な制度の解説を目的としたもので、個別の労働契約について法的判断を行うものではありません。


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