【パワハラ慰謝料は今後上がる?】法務省が損害賠償ルール見直しへ 被害を受けた人が知っておきたいこと

人事・労務

「上司から毎日のように暴言を受けている」

「みんなの前で人格を否定された」

「会社に相談したのに何もしてもらえなかった」

職場でパワハラやセクハラを受けたとき、

「もし裁判をしたら、慰謝料はいくらになるのだろう?」

と考える人もいるかもしれません。

2026年10月15日、労働新聞は、法務省が人格権侵害などに関する損害賠償のあり方を見直すため、有識者研究会で議論を始めたと報じました。

背景にあるのは、人格権侵害に対する現在の損害賠償額について、**「低廉ではないか」**という指摘です。労働新聞社Webサイト

今回の研究会は、インターネット上の誹謗中傷などの深刻化を大きなきっかけとして設置されています。

しかし、職場のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントによる損害賠償でも、人格権侵害などを理由とする民法上の不法行為が問題になることがあります。

そのため、今後の見直しが職場のハラスメント被害にも影響する可能性があります。

ただし、最初に重要なことを確認しておきましょう。

「今日からパワハラの慰謝料が高くなった」というニュースではありません。

現在は、まだ研究会で議論が始まった段階です。

そもそもパワハラを受けたら慰謝料を請求できる?

パワハラがあったからといって、すべてのケースで自動的に慰謝料が発生するわけではありません。

一方で、上司などの行為が違法な人格権侵害などに当たれば、民法上の不法行為として損害賠償が認められることがあります。

厚生労働省の「あかるい職場応援団」に掲載されている過去の裁判例でも、上司本人だけでなく、会社の使用者責任が認められたケースがあります。あかるい職場応援団

たとえば、上司が部下の仕事ぶりを会議で厳しく揶揄したり、退職を勧めるような発言をしたりした事案では、上司の不法行為と会社の使用者責任が認められ、慰謝料50万円と弁護士費用5万円の支払いが命じられた例があります。あかるい職場応援団

別の裁判では、性差別的な言動などについて不法行為責任が認められ、慰謝料30万円と弁護士費用3万円の支払いが命じられています。あかるい職場応援団

一方、パワハラや暴行と自殺との因果関係が認められた重大な事案では、会社と役員に合計5,400万円余りの損害賠償が命じられた例もあります。あかるい職場応援団

つまり、

「パワハラなら慰謝料○万円」

という決まった料金表があるわけではありません。

行為の内容、期間、回数、被害の程度、精神疾患の発症、休職や退職との関係などによって大きく変わります。

なぜ今、損害賠償額の見直しが議論されている?

法務省は2026年9月30日、「不法行為法制の在り方に関する研究会」の第1回会合を開催しました。

開催理由として挙げられているのが、近年深刻化するインターネット上の名誉毀損・誹謗中傷などの人格権侵害です。

法務省は、損害賠償額に関するルールや、損害賠償請求権の消滅時効などについて見直しを求める声があるとして、今後の不法行為法制について研究するとしています。法務省

法務大臣も、人格権侵害に対する損害賠償額について「低廉であるとの指摘がある」ことを認識していると説明しています。

今後は、慰謝料を算定するときに何を考慮するのかなどについても検討される見通しです。法務省

そして労働新聞は、職場のセクハラやパワハラでも人格権侵害による不法行為法制が使われていることから、見直しの影響がハラスメントにも及ぶ可能性があると報じています。労働新聞社Webサイト

「パワハラ慰謝料が値上げされる」と決まったわけではない

ニュースの見出しだけを見ると、

「これからパワハラの慰謝料が高くなる」

と思うかもしれません。

しかし、現時点でそこまで決まっているわけではありません。

研究会が始まった段階であり、法律改正の内容も、改正そのものが行われるかどうかも今後の議論です。

ですから、

「今まで30万円だったものが100万円になる」

などと考えるのは早いでしょう。

今回のニュースで重要なのは、

人格権を侵害されたときの現在の救済が十分なのかを、国が改めて検討し始めた

ということです。

そもそも「パワハラ」って何?

会社で嫌なことを言われたら、すべてパワハラになるわけではありません。

厚生労働省は、職場のパワーハラスメントについて、

優越的な関係を背景とした言動であること、

業務上必要かつ相当な範囲を超えていること、

労働者の就業環境が害されること、

この3つをすべて満たすものとしています。厚生労働省

たとえば仕事上のミスを指摘されただけで、直ちにパワハラになるとは限りません。

一方、

人格を否定するような発言を繰り返す、

必要以上に長時間叱責する、

他の社員の前で繰り返し侮辱する、

業務上必要のない仕事を押し付ける、

逆に仕事をほとんど与えない、

といった行為は、状況によってパワハラに該当する可能性があります。

重要なのは、

「自分が嫌だったか」だけでも、「上司が指導と言っているか」だけでも決まらない

ということです。

具体的な行為や状況を確認する必要があります。

ハラスメント相談は今も非常に多い

「パワハラで悩んでいるのは自分だけでは?」

そう感じてしまう人もいるかもしれません。

しかし、厚生労働省が公表した2025年度の総合労働相談件数は119万8,010件。

18年連続で100万件を超えています。

そのうち民事上の個別労働紛争では、「いじめ・嫌がらせ」の相談が5万5,614件で、14年連続最多となりました。厚生労働省

なお、法律上の職場パワハラに関する相談は別制度で処理されるものもあるため、この5万5,614件がそのまま「パワハラ相談件数」という意味ではありません。

それでも、職場の人間関係をめぐるトラブルが非常に多いことは分かります。

ハラスメントを受けたら「金額」より先にやること

もし現在、職場でハラスメントを受けているなら、

「慰謝料はいくら取れる?」

を最初に考えるより、まず何が起きているのかを残すことが重要です。

残しておきたいのは、次のようなものです。

  1. いつ、どこで、誰から、何を言われた・されたのかを記録する
  2. メール、LINE、社内チャットなどのやり取りを保存する
  3. 勤怠記録や業務指示など、出来事に関係する資料を残す
  4. 体調を崩して受診した場合は、診断書や通院記録などを保管する
  5. 会社へ相談した場合は、いつ誰に相談し、どんな回答だったかを記録する

職場トラブルは時間が経つと、

「言った」

「言っていない」

という話になりやすくなります。

昨日の記事で紹介した生成AIを使って、出来事を時系列に整理する方法もあります。

ただし、その場合も会社名や相手の実名などの個人情報・機密情報を必要以上に入力しないよう注意が必要です。

「録音がないから相談できない」と思わなくていい

ハラスメント被害について、

「録音していなかったから証拠がない」

と諦める人もいるかもしれません。

もちろん録音など客観的な資料があれば、後で状況を確認する材料になります。

しかし、録音がないから相談してはいけないわけではありません。

メール。

LINE。

同僚の証言。

自分自身が継続して残した記録。

病院の受診記録。

会社への相談記録。

さまざまなものが事実関係を確認する材料になり得ます。

重要なのは、

「完璧な証拠が揃ってから相談しよう」と考えて一人で抱え込まないこと

だと思います。

会社へ相談しても動いてくれなかったら?

厚生労働省は、職場でハラスメントを受けた場合、会社の相談窓口、人事担当者、信頼できる上司などへ相談する方法を案内しています。

会社へ相談しても対応してもらえない場合には、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)などへ相談できます。厚生労働省

パワハラなどの民事上のトラブルについては、労働局による助言・指導や、紛争調整委員会によるあっせんなどの制度もあります。厚生労働省

必ず裁判をしなければ解決できないわけではありません。

「会社にはまだ相談したくない」

という段階でも、まず外部の相談窓口で話を聞いてもらう方法があります。

私が人事や現場管理を経験して感じること

私はこれまで、人事・労務や複数の現場の管理にも関わってきました。

職場でトラブルが起きたとき、難しいのは、

「本人が我慢できなくなってから初めて問題が表に出る」

ケースがあることです。

最初は、

「上司だから仕方ない」

「自分が仕事できないから怒られているんだ」

「この程度で相談したら大げさだと思われる」

と我慢する。

しかし、その状態が何か月も続いてから相談すると、本人も疲弊していますし、何がいつ起きたのか整理することも難しくなります。

だからこそ、

「裁判になるほどひどいか」

ではなく、

「自分の仕事や生活に影響が出始めているか」

という段階で誰かへ相談していいと思います。

昨日の記事では、うつ病などのメンタル不調が仕事では「集中できない」「ミスが増える」「眠れない」といった形で現れることも紹介しました。

ハラスメントと体調不良は、別々に考えない方がいい場合もあります。

2026年10月からハラスメント対策もさらに変わっている

実は今月、ハラスメントをめぐる制度には別の大きな変更もあります。

2026年10月1日から、カスタマーハラスメントや、就職活動中の学生などに対するセクシュアルハラスメントについても、事業主に防止措置を講じることが義務付けられました。厚生労働省

そして今日、損害賠償による救済のあり方についても見直しの議論が報じられました。

会社のハラスメント対策だけではなく、

被害を受けた人をどう救済するのか

という部分についても制度が動き始めています。

今回のニュースで働く人が知っておきたいこと

今回の「損害賠償額見直し」のニュースを見て、

「これから慰謝料が高くなるらしい」

だけで終わらせるのは少しもったいないと思います。

まだ法改正は決まっていません。

そして、損害賠償額が将来変わったとしても、職場のハラスメントで一番重要なのは、

被害が大きくなるまで我慢しないことです。

おかしいと思った言動が続いているなら記録する。

体調に変化があれば受診する。

社内外の相談窓口を利用する。

必要なら専門家へ相談する。

損害賠償は、被害が起きた「後」の救済方法の一つです。

本来一番いいのは、

慰謝料を請求しなければならないほど傷つく前に、問題を止めること。

今日のニュースを、「いくら請求できるか」だけではなく、

「自分が今受けていることは、我慢し続ける必要があるのか」

を考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。


参考資料

法務省「不法行為法制の在り方に関する研究会」
法務省「法務大臣閣議後記者会見の概要」
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
厚生労働省「あかるい職場応援団」
厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
労働新聞「ハラスメント 損害賠償額見直しへ 『低廉』との指摘受け 法務省」(2026年10月15日)

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。損害賠償の可否や金額は、個別の事案、証拠、被害の程度などによって異なります。今回の法務省研究会についても、現時点で損害賠償額の引上げや法改正が決定したものではありません。具体的なトラブルについては労働局、弁護士など適切な相談先へご確認ください。

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