法改正に合わせて就業規則を変更した。育児・介護休業規程も修正した。
「これで対応は終わった」と思っている会社は、もう一度確認した方がいいかもしれません。
2026年10月8日の労働新聞によると、栃木労働局は、育児・介護休業法に基づく「柔軟な働き方を実現するための措置」について、短時間勤務制度を導入した企業の就業規則に誤りが多発していると明らかにしました。労働新聞社Webサイト
問題になっているのは、まったく制度を作っていない企業だけではありません。
むしろ、「以前からあった規程を利用して対応した会社」に落とし穴があります。
2025年10月から始まった「柔軟な働き方」の制度
2025年10月1日から、事業主には、3歳から小学校就学前の子どもを養育する労働者について、柔軟な働き方を実現するための措置を講じることが義務付けられました。
会社は、
・始業時刻等の変更
・テレワーク等
・保育施設の設置運営等
・養育両立支援休暇
・短時間勤務制度
の中から2つ以上を選んで制度として用意し、対象となる労働者は、その中から1つを選択して利用できます。厚生労働省
ここだけを見ると、それほど難しい制度には見えません。
ところが今回、ある書き方が問題になっています。
「3歳未満の時短制度を準用」が落とし穴に
もともと育児・介護休業法には、3歳未満の子どもを育てる労働者を対象とした短時間勤務制度があります。
この制度では、一定の場合に1日の所定労働時間が6時間以下の労働者を対象外にすることが認められています。
そのため、就業規則に、
「1日の所定労働時間が6時間以下の従業員を除く」
と書いている会社もあります。
問題はここからです。
3歳から小学校就学前までを対象とする新しい「柔軟な働き方を実現するための措置」で短時間勤務制度を選択した場合、同じように6時間以下の労働者を一律に対象外とすることは認められていません。
栃木労働局は、従来の「3歳未満向け」の短時間勤務規程をそのまま準用してしまい、結果として法律の基準を下回るケースが発生していると注意を呼び掛けています。都道府県労働局
つまり、
「似た制度だから、前の条文をそのまま使えばいい」
ではダメな場合があるということです。
法改正で怖いのは「制度を知らない会社」だけではない
私はこれまで、介護事業の運営や人事・労務に関わり、複数の事業所の管理にも携わってきました。
そこで感じるのは、法改正対応で怖いのは「何もしていない会社」だけではないということです。
むしろ実務上は、
「去年直したから大丈夫」
「社労士からもらったひな形を使っている」
「以前の規程を準用している」
という状態の方が、間違いに気付きにくいことがあります。
特に介護やサービス業のように、正社員、パート、短時間勤務者などさまざまな働き方の従業員がいる職場では、就業規則の「対象者」の書き方ひとつが実際の運用に直結します。
制度そのものを知っていることと、自社の就業規則が正しく制度を反映していることは別問題です。
今回のニュースは、その典型例だと思います。
「今は6時間以下の人がいない」でもダメ
ここも重要です。
栃木労働局は、現在会社に「1日の所定労働時間が6時間以下の労働者」が在籍していないことを理由として、対象外にすることはできないとしています。都道府県労働局
「うちには該当者がいないから関係ない」
ではありません。
今はいなくても、将来採用する可能性があります。
正社員が育児などを理由に勤務時間を変更する可能性もあります。
就業規則は「今いる社員だけ」に合わせて作るものではなく、会社として適用されるルールとして法令に適合させておく必要があります。
会社はどこを確認すればいい?
今回の注意喚起を踏まえると、少なくとも次の点は確認しておきたいところです。
① 3歳未満の短時間勤務制度と、3歳~就学前の制度を混同していないか
対象年齢によって制度の根拠や対象者の扱いが異なります。
②「6時間以下は対象外」という条文をそのまま準用していないか
栃木労働局が今回特に注意を促しているポイントです。
③ 法改正時に「就業規則を変更しただけ」で終わっていないか
会社は、3歳から小学校就学前の子を育てる労働者のために5つの措置から2つ以上を選択する必要があります。また、制度を選択する際には過半数労働組合等から意見を聴く機会を設ける必要があります。厚生労働省
④ 対象となる社員に制度が伝わっているか
制度が就業規則に存在していても、社員が知らなければ利用できません。
事業主には、3歳未満の子を養育する労働者に対して、子が3歳になる前の適切な時期に制度を個別に周知し、利用意向を確認することも求められています。厚生労働省
「ひな形を入れたから大丈夫」が一番危ない
就業規則の改定というと、どうしても「新しい条文を追加する作業」になりがちです。
しかし本当に確認すべきなのは、
その規程を実際の社員に当てはめたとき、どうなるのか。
です。
たとえば、
「このパート社員は対象になるのか」
「時短勤務中の社員が子どもが3歳になったらどうなるのか」
「会社が選んだ2つの制度を本当に利用できるのか」
と、具体的な社員を想定して読んでみる。
そうすると、条文だけを見ていると気付かなかった問題が見えてくることがあります。
人事・労務の制度は、「規程を作ること」がゴールではありません。
社員が実際に制度を利用でき、管理者や人事担当者が正しく運用できて、初めて制度として機能します。
今回のニュースは、法改正から約1年が経過した今だからこそ出てきた問題ともいえます。
2025年の改正時に育児・介護休業規程を変更した会社は、「変更したから大丈夫」ではなく、一度実際の条文を読み直してみる。
それだけでも、将来の労務トラブルを防ぐきっかけになるのではないでしょうか。
参考資料
・栃木労働局「育児・介護休業等に関する規定の注意点」
・厚生労働省「柔軟な働き方を実現するための措置」
・厚生労働省「育児・介護休業法 改正のポイント」
・労働新聞「育介法・柔軟な働き方措置 就業規則改定で誤り多発 短時間勤務の選択時 栃木労働局」(2026年10月8日)
※本記事は一般的な制度の情報提供を目的としています。個別企業の就業規則や具体的な労務判断については、所轄の労働局や社会保険労務士などの専門家へご確認ください


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